Sunday, June 28, 2009

自動翻訳

 うちの晩ごはんはとにかく長い。1時間は短い方で、いつも1時間半、2時間ということもしばしば。なぜ長いかというと、私たちの会話がいつも長くなってしまうからだ。私のお気に入りのトピックは政治や時事問題、夫はというと宗教や専門の人類学。エリックの座る椅子からは、窓の外が見えるから、退屈することもあまりない。私たちの会話をかなりじっと聞いていて、ときどき知っている語彙が出てくると、真似をしたりしているが、最近、自動的に訳をしていることに気付いた。
「Their story was very heavy」
を聞くと「重い」と言う。
「It should be done by now」
と聞けば「今」と言う。
 そういえば、
「青いクレヨンとって」
と言うと、「blue」と言ったり、
「さっきのは緑の車だったね」
と言うと、「greenのcar」と言う。
 どうも自動的にやっているようだ。私が訳すときは、センテンスを別の入れ物に移し変えるように頭が働いているが、エリックの場合は自然、というか、自動的なのだとつくづく思う。

Sサウンドが難しい

50音を教えようと思って、「あいうえお」「かきくけこ」と言っているうちに、エリックも真似しはじめた。とはいえ、「あいうえお」と言うと、全部言えず「あいう」だけになるので、「あいう」「えお」と半分に切って言うとちゃんとついてくる。

それではっきりしたのだが、どうもいちばん難しいのは「さ行」、次は「は行」のようである(せっけんは「えっけん」に、ひこうきは「いこうき」に聞こえる)。

そういえば、夫も「S」サウンドが出ていないと言っていた(Skyは「カイ」に、「Soup」は「ウープ」に聞こえる)。

夫によると、ほんの少ない確率で、聴覚に問題があるとき、Sサウンドが聞き取れない、そのために発音できない、ということがあるらしい。そうなのだ! 聞き取れない、ということは発音できない、ということなのだ。つまり、聞いてなけい発音であれば同じように発声できないのだ。それは、未だにThやLやRの発音に四苦八苦している私には明らかである。そう考えてみれば、日本における英語教育は、やはり2,3歳の小さいころに英語話者の発音、あるいはそれによる歌などを聞かせるところから始まるのかもしれない・・・。

Sサウンド、今後、注意しておこう。

1親1言語を貫くのは簡単じゃない

 今日、スパダイナ駅でベンジャミンと彼の両親ばったり会った。トロント大学のレジデンスに住んでいたときの知り合いで、キャンパスを散歩しているとよく一緒になってよく話をしていた。
 3歳になったばかりのベンジャミンは相変わらず思慮深い表情で、フレンチ・カナディアンのお母さんとはフランス語を、中国系のお父さんとは中国語を話していた。訊けば、デイケア(託児所)では英語を・・・、と3カ国語を使い分けているらしい。
「エリックの日本語はどう?」
「語彙はどちらかというと日本語の方が多いみたい。でも、おかしいのは・・・」
と言って、私はエリックが夫の英語アクセントの混じった日本語を話す様子を説明しはじめた。すると、ベンジャミンのお母さんは真顔になって、
「うちも同じよ。だから、夫にはフランス語でベンに話さないようにって言っているの」
と言った。
 エリックが、たとえば「耳」という単語を言うとき、最初のミは強く、次のミは弱く、私には女性の名前「Mimi」に聞こえる。他にも同じようにアクセントが日本語としては不自然な単語がたくさんある。しかし、私はそれほど気にしてはいなかったが、ベンジャミンのお母さんは「間違ったアクセントを教えないためにも母国語だけを話すべき」と強調した。言語学の博士課程にいる彼女の言葉はかなりの説得力を持って私の耳に響いた。
 帰って夫にそのことを話すと、「フレンチは発音の美しさにはうるさいからね」と言っていたが、「そういえば・・・」といってこんな話をした。幼稚園の先生をしている知人の隣人は韓国出身の3人家族。カナダに移住してから、両親は3歳になる子どもに英語を教えるために、家では英語を使っていたらしい。今年6歳になるその子どもは、今でも強い韓国語アクセントのある英語を話すそうである。
 エリックに正しい日本語を教えるためには、夫は英語のみ、私は日本語のみで話しかける必要がある、と、私も以前、パブリックナースのシャーリーに言われた。しかし、簡単なように聞こえるが、実際、それは難しい。私は気付いたら「You are such a good boy」とか「Wow!」とか言っている。夫も無意識のうちに「暑いね」「本は棚に戻して」などと言っている。1親1言語を貫くのはそんなに簡単ではないが、これからは意識して日本語だけを使おう・・・。

Thursday, June 25, 2009

言語発達の遅れを指摘される

 エリックが早産で生まれてしまったのは、引越しで重いものを運んでしまったからだ。・・・と私は今も信じている。夫は「生まれるべきときに生まれた」のだと言うけれど。
 私たちがトロントで2度目に引っ越してきたのは、トロント大学(U of T)の家族レジデンス。夫は9月からトロント大学大学院の修士課程をはじめる予定だった。
 このレジデンスは実に興味深いところだった。テナントはすべてトロント大学の大学院で学ぶ人とその家族。世界中からトロント大学へやってきた大学院生が住むレジデンスは、マルチカルチャーのトロントのなかでも、その核心といった雰囲気をもっていた。
 レジデンスには、子どもを連れて来ることのできる「ドロップ・イン・センター」があって、頻繁に利用していた私は、そこでいろんな文化背景を持つ親子に出会った。このドロップ・イン・センターを通して、トロント市が無料で開催している「Nobody's Perfect」というプログラムに参加した。ファシリテイターのノエラは、エリックが早産で生まれたこと、出産後の私の体重が減っていることを聞くと、パブリック・ナース(保健婦)の訪問を受けることを勧めた。
 早速、トロント市保健課に電話をすると、エリックの発達をはかるための簡単な口頭試問的なチェックをされた。「ひとりで立つか」「バイバイで手をふるか」「名前を呼ぶと振り向くか」などの項目に答えていくのだが、そのチェックが終わって、「何か心配なことはありそうですか」と聞くと、「言葉の発達が遅れている可能性が高い」と言われた。そして、そのことをパブリック・ナースにも伝えておくと言われた。
 このコメントを聞いた私はあまり気にしていなかったが、それを聞いた夫は育児書を本棚から取り出して「たしかにバブリングは6ヶ月ごろから始まると書いてある」といささか心配気味だった。エリックは「マンマ、ンマンマ」といったようなことを言い始めてはいたが、それが「食事」なのか「ママ」なのかはよく分からなかったし、何を見ても「マンマ」だった。
 しかし、1歳を迎えるころ、言葉の始まりであるバブリングが始まった。何を言っているのかはわからないが、いつもひとりごとを言っているような感じで話していた。育児書には6ヶ月から始まるとあるが、エリックは11ヶ月ということで少し遅れている。
 訪問してくれたパブリック・ナースのシャーリーは、エリックの様子を観察しながら、「言葉が遅れている可能性があるので、これからも様子を見守っていきましょう」と私に伝えた。

1歳でデイケア(託児所)に入れないという決断

 カレッジのプログラムを終えずに産休に入った私は、エリックが生まれてからというもの、頭の隅にはいつも「いつカレッジに戻ろうか」という問いがちらついていた。カレッジのクラスメイトが「出産おめでとう!」のメールを送ってきてくれたときは、迷うことなく「1年後には戻るつもり」と返答していたのもだが、1年経つころ、その決断がぐらついてきた。
 まずは、エリックの一生のうちでいちばん成長が目覚しいとされる時期にいっしょにいてあげて、いろんなことを見守ってあげたいという気持ちが大きくなってきたこと。しかし、それよりも大きかったのはこの時期に1日で起きている時間の大半を英語環境であるデイケアで過ごすことで「日本語の習得」が難しくなるのではないかという疑問だった。
 デイケアには2歳から入れたいと考えていた夫も、最終的には私が学校に戻りたいなら1歳でも構わないとサポートしてくれた。結局、私が決断する必要が出てきた。プロのドゥーラである友人ドミは親身に私の相談に乗ってくれ、個人的意見として「切迫した必要性がないなら、もう少し待つ方がいい」と言った。私がカレッジに戻るのが1年遅れたとしても、大して大きな問題ではない。しかし、エリックから1年間、日本語習得のチャンスを奪うのは彼の一生にかかわる問題ではないか。迷いに迷った末に、そう考えた私は、カレッジに戻るのを1年延期する決断を下したのだった。

妊娠中のバイリンガル教育

エリックを妊娠しているとき、ペルー人の友人ホセの奥さんのドミが私に言うのだ。
「お腹のなかの赤ちゃんに日本語で話しかけてる? たくさん話しかけた方がいいわよ。バイリンガル教育はお腹のなかにいるときにすでに始めるべきものなのだから」
 「バイリンガル教育」とは何とエリート的で鼻につく言葉だろう。私はドミの言葉を聞いてそう思っただけだった。
 しかし、それ以降も、プロのドゥーラであるドミはことあるごとに「バイリンガル教育」の重要性を私に説いてきかせてくれた。
 ホセとドミの7歳になる子どもは、スペイン語、英語のバイリンガル。家庭ではスペイン語を、学校では英語と完璧に使い分けている。ドミが言うには、友人のひとりの8歳と4歳になる子どもはスペイン語をまったく理解しないらしい。両親は2人ともペルー出身のスペイン語話者。子どもたちが小さいうちはスペイン語で話しかけていたのだが、子どもたちがデイケア(託児所)に行き始めると、家でスペイン語を話さなくなってしまった。友達とは英語で会話をし、そっちに引きづられているのでスペイン語を話すのが億劫になり、共働きで忙しくい両親も強制することをやめて家庭の会話が英語になっていき・・・そこからはダウンフォールでもうまったくスペイン語を話さないのだという。ペルー系カナダ人のコミュニティのイベントがあっても、スペイン語で意思の疎通ができない子どもたちはそこから自然と離れてしまい、「完璧なカナダ人になってしまった!」(ドミの言葉)そうである。
 私の周囲を見ると、家庭では日本語を(あるいはスペイン語を、中国語を、ポルトガル語を)話し、学校では英語を話している子どもたちばかりなので、「私たちの子どもは何も特別なことをしなくても簡単にバイリンガルになるんだろうな」と漠然と考えていた私は、ドミとの会話を重ねるうちに、バイリンガルを作るには親がきちんとその事実を認識する必要があることに思い至った。
 バイリンガルになってほしいというのは、夫と私、共通の願いである。しかし、妊娠中の私は、お腹のなかの赤ちゃんに話しかけるなんて、そんな悠長なことはしている暇はなかった。フルタイムで学校に通っていたため、毎日のように要求されるプレゼンテーションやエッセーの締切りなどでとても妊娠気分を味わっているような余裕はなかった。
 結局のところ、エリックは妊娠中のバイリンガル教育なしに生まれてきたことになる。

Tuesday, June 23, 2009

ハイブリッド言語

今日、私がキッチンからリビングへ戻ってくると、エリックがこう言った。  「マミー、おりょうり done」  言いたいことは分かる。マミーのお料理は終わり、ってこと。しかし、このハイブリッド言語、このままでよいのだろうか。「done」という単語はEが頻繁に使う単語のひとつで、①「終わり」という意味、②「いやだからやらない」という意味があるらしい。たとえば、公園に行ってブランコに乗せようとしたとき、嫌がる場合は「No, no, done, done」と言う。Eにとっては便利な単語なのだろう。「おりょうり」も「Cooking」もどちらも意味は理解しているらしいが、自分で使う場合は「おりょうり」を使っている。  いずれ「おわり」という単語を習得すれば、きっとこのハイブリッド言語もなくなっていくのであろうが、今日はこれを聞いてちょっぴりひやっとしたね・・・。

3ヶ国語を話す3歳ライラ

 ワオ!   昨日、久しぶりに会った友人サラの3歳になる娘さんライラは英語、フランス語、スペイン語を話していた。サラは英語が母国語、大学院でスペイン語を勉強したとあってスペイン語もかなり堪能でフランス語も少々話す。ライラのナニーはスペイン語が母国語の南米出身の女性で、1歳から面倒を見てもらっている。ライラは、ナニーとはスペイン語を、マミーとは英語を、モンテソーリのデイケアではフランス語を・・・と使い分けているらしい。3歳でトライリンガルとは! というより、このくらい早くでなくてはいけないのかも。  そういえば、私とエリックが行く公園でよく一緒になる3歳のレベッカは中国出身のナニーとは中国語で、私とは英語・・・と切り替えて話している。お父さんが中国系カナダ人らしい。トロントという場所は、世界中から移り住んだ人たちがいるので、サラのように小さな子の世話係に世話のみならず、言語習得まで託すことも可能。こういう意味では、やっぱりすごいトロント。

バイリンガルはどのように作られるのか

日本で英語を教えていた経験、英語圏に住むようになった経験、さらには未だ英語に関しては「日々勉強・・・」といった経験から、2007年6月に子どもが生まれて以降、どのように言語が習得されていくのかに関して非常に興味深く観察してきた。英語話者の夫、(最も多く一緒の時間を過ごす)日本語話者の私、外では英語という環境に育つ2歳になったばかりのエリックの様子を書き留めておこう。
  - 出てくる単語は日本語の方が圧倒的に多い
   - 出てくる単語を観察すると、英語、日本語のうち、発音の簡単な単語を選んでいる(「ねこ」よりCat、「こんにちは」よりHi、Chairより「いす」、Pebbleより「いし(石)」など・・・)    
   - 夫と3人で会話をしている時に「heavy」「Big」など知っている単語を聞くと、即座に「重い」「大きい」と日本語で繰り返す    
   - 日本語・英語で簡単な指示を出して反応を見ると、日英両語理解していることがわかる
   - さ行、は行の発音が最も難しいらしい。英語ではS、thなどの発音が難しい
   - 「ごめんね」と言いたいときに「ごはんMore」と言うので笑ってしまう

公園に行って、(3、4歳ぐらいの)他の子どもたちと私が話していると、話に入ろうとするE。持っている石を指して「おおきい石」なんて言っても彼らは分からないので「何を言っているの?」と訊かれることもしばしば。「エリックは日本語を話しているの」と言うと、「何、それ?」と言うので説明するが、分かっているのか分かっていないのか・・・。とにもかくにも、こうして一生懸命話に入ろうとしているEも日本語を使っているため、話に入れずちょっぴり可哀想、と思うこともある。けれど、英語はいずれ教えなくても入ってくるだろうから、日本語教育係の私としてはここで折れずにがんばるつもり。

おお、そういえば。何となくエリックの日本語の発音が夫の発音に似ていることに気付いた。「おおきい」でなく「おっきい(「お」が強い)」、「階段」も「かぃだん(「か」が強い)など、のっぺりとした日本語のアクセントよりどこか強弱がついている・・・。夫には「日本語は私がやるから、英語でいいのよ」と言っているのに、今年9月から大学院に戻るので日本語習得を念頭に置いているのか、ことあるごとに日本語で話そうとしていて、なんとも厄介というか、何というか・・・。