Thursday, June 25, 2009

妊娠中のバイリンガル教育

エリックを妊娠しているとき、ペルー人の友人ホセの奥さんのドミが私に言うのだ。
「お腹のなかの赤ちゃんに日本語で話しかけてる? たくさん話しかけた方がいいわよ。バイリンガル教育はお腹のなかにいるときにすでに始めるべきものなのだから」
 「バイリンガル教育」とは何とエリート的で鼻につく言葉だろう。私はドミの言葉を聞いてそう思っただけだった。
 しかし、それ以降も、プロのドゥーラであるドミはことあるごとに「バイリンガル教育」の重要性を私に説いてきかせてくれた。
 ホセとドミの7歳になる子どもは、スペイン語、英語のバイリンガル。家庭ではスペイン語を、学校では英語と完璧に使い分けている。ドミが言うには、友人のひとりの8歳と4歳になる子どもはスペイン語をまったく理解しないらしい。両親は2人ともペルー出身のスペイン語話者。子どもたちが小さいうちはスペイン語で話しかけていたのだが、子どもたちがデイケア(託児所)に行き始めると、家でスペイン語を話さなくなってしまった。友達とは英語で会話をし、そっちに引きづられているのでスペイン語を話すのが億劫になり、共働きで忙しくい両親も強制することをやめて家庭の会話が英語になっていき・・・そこからはダウンフォールでもうまったくスペイン語を話さないのだという。ペルー系カナダ人のコミュニティのイベントがあっても、スペイン語で意思の疎通ができない子どもたちはそこから自然と離れてしまい、「完璧なカナダ人になってしまった!」(ドミの言葉)そうである。
 私の周囲を見ると、家庭では日本語を(あるいはスペイン語を、中国語を、ポルトガル語を)話し、学校では英語を話している子どもたちばかりなので、「私たちの子どもは何も特別なことをしなくても簡単にバイリンガルになるんだろうな」と漠然と考えていた私は、ドミとの会話を重ねるうちに、バイリンガルを作るには親がきちんとその事実を認識する必要があることに思い至った。
 バイリンガルになってほしいというのは、夫と私、共通の願いである。しかし、妊娠中の私は、お腹のなかの赤ちゃんに話しかけるなんて、そんな悠長なことはしている暇はなかった。フルタイムで学校に通っていたため、毎日のように要求されるプレゼンテーションやエッセーの締切りなどでとても妊娠気分を味わっているような余裕はなかった。
 結局のところ、エリックは妊娠中のバイリンガル教育なしに生まれてきたことになる。

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