Thursday, July 2, 2009

二カ国語環境とことばの遅れ


 エリックが1歳半のとき、パブリック・ナースのシャーリーの訪問を受けた。トロントでは、デイケアに預けていない限り、専門家の知識や育児関連サービスに関する情報を受けられるようにと母親がパブリック・ナース(保健婦)と頻繁に連絡を取ることができる(市のサービスは無料)。シャーリーはエリックが1歳のころから数回にわたって訪問してくれているほか、何か必要なことはないかと定期的に電話をくれている。

 やってきてしばらくエリックを観察していたシャーリーは、私にことばに関する質問をいくつかしたのち、スピーチ・セラピスト(言語療法士)に連絡を取ってみてはどうかと勧めた。平均的な1歳半に比べるとことばに遅れがあるような気がするし、スピーチ・セラピストとの予約は半年待ちといった状況なので、2歳になった時点で必要がないと思えば予約を破棄するつもりで、念のため、予約を入れてみるのも悪くない、ということだった。

「二カ国語環境で育てていることが原因かしらね?」

と言う私に、シャーリーは「二カ国語環境がことばの遅れに影響することはないわ」とかなりきっぱりと言った。

 「二カ国語環境がことばの遅れに影響することはない」

 このクレイムには、さまざまな意見がある。専門家のあいだでは、確かに二カ国語環境と言葉の発達には関連がないという意見が多いようだが、プレイグラウンドの意見は多少違っている。(二カ国語で育てている)他の母親によると、子どもたちの言葉が少し遅いという意見が大半である。ただし、「ひとたび話し始めたらすぐに追いつく」という見方で、「心配することはないわよ」という。さらには、上の兄弟がいる、いないや、母親がおしゃべりかどうか、が関連するなど、二カ国語に絞って言うのは難しいという母親たちの話を何度も聞いている。

 「ことばが出ない」は「ことばを理解していない」とイコールではない。私と夫から受ける指示(まどのそばにあるりんごをとってきて/Go, get the apple by the window)に対してはどちらも完璧に理解してちゃんとボールを取ってくる様子を見ると、「理解度」に関しては問題ないことがわかる。ただし、「話す」に関しては「りんご」と「apple」の両方を使うわけではなく、なぜか発音しやすい方(この場合はapple)を選んでいる。なので、二カ国語でことばを蓄積している子どもたちにはスタート時点では確かに少し不利があるかもしれないが、いずれすべての発音がクリアにできるようになるとこの問題も消えるものと思われる。

 専門家は発達チャート(「この時期にはこれができる」)を見てその子どもの発達度をはかっているものだが、この発達チャートも半分ほど信用すればいい、と思う。たとえば、「300語の語彙がある」などという項目も、二カ国語環境で育つ子どもにとってはちょっぴり不利だという気もする。もし「りんご」と「Apple」の両方が言えても2語ではなく「1語」と計算されるのだ。

 私も夫も、結局、スピーチ・セラピストに電話しなかった。

 2歳になったエリックの様子を見ると、それで結局よかったと思っている。 

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