Monday, January 24, 2011

「継承日本語」講演会・・・

1月23日、JCCC(Japanese Canadian Cultural Centre)で行われた鈴木美知子先生による「家庭に於ける継承日本語育て-継承語を正しく理解し、子どもをどうサポートしたら効果的かをさぐる」に参加。

まず、「継承語」とは、「親がご先祖様から受け継いだ大事な文化遺産(母語)であり、心で伝えることばである」「育てなければ育たないことばであり、放置すれば3代で現地語に同化し、消える運命の言葉である」(講演会配布資料より)。

「継承語教育」とは、「国語教育と外国語教育のはざまにあり、移住や海外赴任にともなって必要となることばの教育であり、親のことばと学校や社会一般で使われることば(現地語)が異なる環境で言語形成期を送らねばならない子供達に必要な教育である(『継承語としての日本語教育-カナダの経験を踏まえて』中島和子)」(配布資料より)。

日本で継承語という呼び方を聞く機会がないのと考え合わせるとおもしろいのだが、ここカナダでは日本語は私たち日本人のように「ディアスポラ」なわけね。英語ではHeritage Languageという呼び方をされる「継承語」、私のイメージとしては、ことばを通して、ことばプラスその文化、その文化を支える「価値」をも伝えようとする目的がある。なので、日本でなされる「英語教育」とそのあたりが根本的に大きく違っている。

私のこれまでのバイリンガル育児経験をかんがみると「継承語教育」をしているという意識はほとんどない。私がしているのはあくまでも「日本語教育」で、「ご先祖様から受け継いだ大事な文化遺産」を教えているという意識は毛頭ない。

ただ、そこに意識はなくても、ことばが自ら備えている「思考回路」のようなものを通して、そこから私という媒体を通してあらわれる文化的側面を完全に拭い去ることは不可能だと思う。したがって、エリックは知らないうちに日本の文化を学び、日本文化の「担い手」になっているのだ。おお!(これは、たとえば、私は日本で英語を教えていたとき、教える私が英語話者の価値やら文化を具現化していたわけではないので、生徒にそのあたりの価値は伝わらなかったのと同じことだろう)。

・・・と、そんなことを考えていると、日本人の私とカナダ人の夫から2つの言語(文化)を「継承」されつつあるエリックは、ひょっとしてとってもラッキーなのだわね、と思ったりした。

しかし、こういう状況にある子どもたちのうち、鈴木先生が「絶対に避けてください」と強調していたのは「低迷型バイリンガル」で、どちらの言語も年齢相応のレベルに達していない子どもたち。バイリンガル育児をしている親が望んでいるのは、一方で「加算型バイリンガル」といわれ、両方のことばが年齢相応のレベルに達しているもの。私のバイリンガル育児ももちろんこれが目標。

ひとつ非常に??と思ったのが、「おてて、おうちなどの“お”つき言葉のような女性言葉はやめてください」という鈴木先生のことば。「最近では男性の保育士さんでも“おそと”などという女性言葉を使っていますが、とくに男の子を育てる場合はやめてください」。

“お”つき言葉が「女性言葉」? ほんとうに?

数年前、日本に帰国した際に、東京に住む妹が自分の子ども(7歳の男の子)に向かって「ご本」「お二階」「お椅子」「お電話」と言っていたのにびっくり仰天した記憶がある。今の日本では、幼稚園などでそういう言葉づかいをしているらしい。私はそんな言葉は使っていなかったし、だいたい10年も海外にいて敬語も使うことなくやってきたので、日本ではこうやって子どもには丁寧なことばで教えているのかと驚いた。それに、英語でdogがdoggie、duckがduckyになるように、最近の日本では、「お」をつけると「丁寧語」か「こども用のことば」になるのかもしれないと勝手に理解していた。

私も「おそと」をはじめ、「おかし」や「おせんべい」「お酢」「おこめ」「お粉」(食べ物関係が多いね・・・)「おふろ」をエリックに対して使っている。ただ、これが女性言葉で男性が使えないとは思わないし、あまり過剰なケースをのぞけばそんなに気にしてはいない。

また、ひょっとすると鈴木先生のこの理解は、今の日本の現状にはあっていないのかもしれないのかも・・・。言語・ことばは時代を経てどんどん変容していくものだし、私たちのように海外で日本語を教える場合、これが非常に興味深い例として出てくることもある。

たとえば、私の知人で40年ほど前に日本から移住してきた人がいる。その人とだんなさん(日本語がかなり話せるカナダ人)が「おべんじょ」と言っているのを聞いて、私、腰が抜けるかと思ったことがある。今じゃ使わないこの言葉も、40年ほど前の日本では日常的に使っていたんでしょうね(かくいう私も以前bits Magazineの記事に「近藤マッチ」なんて書いて編集者に笑われたこともあるものね)。海外に長く住んでいると、このあたりもちょっと気をつけて見ていなくては、と実感した。

内容的には、去年とほとんど変わらずで残念だったし、「継承語教育」の全体的な話よりも、実際にこくご教室で教えられている鈴木先生の経験などの方が面白いと感じるので、そのあたりもちょっぴり残念だった。

もうひとつ興味深い発見が。去年の講演会では子どもOKだったから今年も私、エリックをいっしょに連れて行ったのだが、子どもはおらず・・・。Eは私の隣に座って静かにお絵かきをしていたのだけれど、私とひそひそ話をたまにしていた。いつもは英語が大半なのに、そのときだけは90%のエリックの会話が日本語だということに気付き驚いた。ときどき鈴木先生のお話のことばをピックアップして「さっき、にほんごがっこう、って言った?」とか「かみのうえにおちた、って言ったね」とか、やはり日本語がマジョリティで話されている環境にいると、自然とスイッチしていたのかもしれない。ふーむ、やっぱり日本語環境をつくってあげることが大切なわけだわ・・・。

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