Saturday, August 22, 2009

納得!の「LAD(言語習得装置)」と「ルール探し」

エリックのバブリングが始まったとき、「いくつかの言葉は中国語やフランス語の発音に聞こえるね」と夫と話していたのを覚えている。よく行く公園に中国語を話すおばあちゃんたちやフランス語を使っている家族がいたので、ひょっとして?とも思ったが、そんな時間は1日のうちわずか数分というところで、まさかそれをエリックが真似しているとは思えなかった。

赤ちゃんは周囲の言葉を聞きながら、それを模倣することで言語が使えるようになる、と私たちは考えがちだが、実際にエリックを観察していると、チョムスキーのLAD論が最も理に適っていことがよくわかる。

チョムスキーのLADとは…

人間が第一言語を習得できるのはなぜか、という問いに関する答えとして1950年代まで広く信じられていたのはImitation Theory(模倣説)だった。つまり、赤ちゃんは周囲で使われる言語を暗記し、それを徐々に自分のものとしていく、という説である。しかし、模倣説の問題点は、では、赤ちゃんが私たちの教えない言葉や発音を発するのはなぜか、という問いに答えられない点であり、それは究極的に言語に関するクリエイティビティを説明できないという問題となる。

これに対し、1950年代に言語学者のノーム・チョムスキーが主張した論は画期的だった。チョムスキーは、赤ちゃんの脳には言語発達に必要な能力が生まれながらに備わっていると主張し、この能力をLAD(Language Acquisition Device/言語習得装置)と名づけた

LADの特長は…
 *入力された情報に基づいて、文法を形成する
 *言語を成り立たせる決まりや原則を発見する
 *言語の構文(Syntax)、語義(Semantic)、語用論(Pragmatics)
 *仮説の実験、およびルール探し

言語は、数々のルールによって成り立つ体系(システム)である。
私が後になって英語を学んだとき、文法を理解しただけでは実際にネイティブ・スピーカーのように英語を操ることができないと知ったように、ここでいうルールとは文法に限らず、構文や文章の成り立ち(Syntax)、単語に付されたさまざまな意味(Semantic)、どういうときにどのように使うかといった実用的な言語使用(Pragmatics)、発音なども含む。これらのルールに基づいて言語を自在に操れることはネイティブ・スピーカーの条件で、たとえば「わたしが料理する」と「わたしは料理する」の文章の微細な違いを取れるのは、こうした言語のルールを本能的に理解しているからに他ならない。

言語を教えた経験のある人なら実感できるが、言語に関するルールの数は莫大である。それをひとつひとつ第二言語として学ぶ人に教えるのには限界がある。

第一言語を習得する過程では、こうした莫大な情報を脳にインプットしていくわけだが、赤ちゃんには生まれながらにして言語にかかわる情報をインプットできる装置が備わっている。第一言語(母国語)習得が文法書を必要としないのはそのためである。

また、チョムスキーは、言語習得は「仮説の実験」および「ルール探し」を繰り返すことで可能になると考えた。子どもたちは、言語情報をインプットしながら自分なりの仮説を打ちたて、その仮説が正しいかどうかを実際の場で使ってみることにより実証していくのである。

実際、私もこれを見たことがある。以前、プレイグラウンドでエリックと遊んでいるとき、3歳か4歳の子どもがやってきて私が「かわいい靴をはいているわね」と言うと、その靴のことを、弟のことを、あるいは家の庭のことなど、ありとあらゆることを説明しはじめた(このころの子どもは本当によくしゃべる!)。そのうち、”When my dog came to me, he took one shoe, I was angry… I get angry? What do I say? … I would say I get angry…”と自分の言語知識を試しているかのような話し方をしていたのを覚えている。私が“You got angry with the dog?”と聞くと、“Yes, I got angry with him”ときちんと訂正できたのも驚きだった。

最近のエリックは、動詞の活用を試していることがあるような気がする。昨日も、食事中に「Me食べ」「Me食べる」「食べた」というような活用形を意識的に使いながら、私の方を見ているので、ひょっとしてエリックは正しい活用を知ろうといろいろと試しているのかも知れない、と思い、テーブルにいるときには「食べる」と教え、テーブルから降ろした後には「食べた」と教えた。今のところ、「話したい」という気持ちを大切にしたいので文法的正しさを教えることに躍起になることはないが、これがチョムスキーのいうRule Finding(ルール探し)の初段階であれば、ここできちんとした言葉を教えておくことが大切だろう。

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