Wednesday, November 3, 2010

bits連載コラム第9回 バイリンガルで育てると言語発達が遅れる?

今回のタイトルに対する言語学者や医療専門家の答えはおしなべてNOであって、彼らは「それを実証する科学的根拠は見つかっていない」と口を揃える。これは、20年くらい前までスピーチセラピストや医師の間に浸透していた「バイリンガル環境は子どもを混乱させるだけ」という意見に抗する答えと受け取ってもよいだろう。

でも、エリックが1歳半くらいのとき、バイリンガル育児をしている親たちに公園や病院で話をしてみると、「うちの子は同年代の子に比べるとちょっと遅れている」というコメントを少なからず聞いた。そのうちのひとり、非常に情報通のキャロルは、彼女と子どもはギリシア語を、父親と子どもは韓国語を、3人のときには3人の共通語である英語を話していると言っていた。そして「この状況が遅れを出していることは否めないけれど、私が調べた結果は、そのうち追いつき、すぐに追い越してゆくってものだから、心配ないの」と実に自信たっぷりに言っていた。経験からすると、私の話した多くの親が「同年代に比べると遅れているみたいだけど、それはバイリンガルで育てているから・・・」と納得していた。

エリックの場合もやっぱり遅れていた。1歳半から2歳という時期は、言葉が湧き出る時期と言われるが、エリックはあまり言葉をしゃべらなかった。パブリック・ナースからは「スピーチ・セラピストに連絡をしてみては?」と言われ、実際、そうした。でも、それが変わったのは3歳になる直前。

このころ、ちょうど日本に2ヶ月帰国したこともあって、この間、エリックは「エア・カナダに乗ったね」とか、「階段が傾いてたね」とか、まさか知ってはいないだろう、と思われるような日本語を突如としてしゃべり始めた。その様子を見ていると、これまで周囲で話される言葉をじいっと聞きながら、自分のなかに蓄えていたことがよく分かった。

個人的な性格も言語習得に影響があるということも覚えておかなくてはならない。エリックの性格からすると、まずは頭のなかにたくさんの言葉を入れ、まわりを観察しながら言葉を実際に使うまでには時間がかかっていると考えられなくもない。これは、バイリンガルで育てていようと、モノリンガルで育てていようと同じ傾向性として現れるはずだろう。

ちなみに、ある心理学者の研究結果によると、単語そのものを早いうちから使い始める子たちがいる一方で、単語そのものよりは周囲で話されている言葉のリズムやイントネーションを真似ながらバブリングを早期にする子どもがいるらしい。後者は、言葉を話すのは遅いけれど、どちらかというと記憶力がよく、言語に対する感性が備わっている場合が多い、という。「言語に対する感性」は、生まれもったものなのだろうか、というあたりも興味深い。

完全に日本語環境で暮らしている子どもに比べれば、きっとエリックの日本語の語彙は少ないに違いない。でも、その分、英語も入っているので、やはりキャロルや専門家の言うように、バイリンガルで育てられた子どもの一部には、2歳前後に一時的に同年代の子と比べると遅れが見られる可能性もあるけれど、それはほんの一時期に過ぎないのだということなのかもしれない。

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