トロントがマルチカルチャー都市であることは私だって知っていた。トロント人口の約半数は私のような外国生まれなのだもの、町の至るところで英語以外の言葉を耳にしたり、多様な書き言葉を目にすることは凡庸なる日常の風景・・・。
しかし、子どもが生まれ、はじめて「プレイグラウンド」や「ドロップイン・センター」なる場所へと足を踏み入れた私は、「マルチリンガル環境の実情」に驚嘆してしまった。母親たちは、実にさまざまな言語で子どもたちに話しかけていて、場所によっては英語の方が通じにくいドロップイン・センターもある。彼らとの会話から、家庭と外で異なる言語を話している家庭はもとより、家庭では母親・父親の言語を、外では英語を・・・と3ヶ国語環境で育つ子どもたちも珍しくないことも分かった。周囲とは英語を、子どもには自分の母語で話しかける母親を見ながら、こうして育てられたバイリンガル/バイカルチャー(あるいはマルチリンガル/マルチカルチャー)の子どもが大人になっていくトロントという場所は、「グローバルビレッジそのものだわ!」と私は密かに感動し、将来に対する希望を見たような気がしたものだ。
こんな(住んでる人には素晴らしい)トロントで、現在2歳5ヶ月になる我が家のエリックは、日本語話者の母親(私)と英語話者の父親とともに育っている。妊娠中から、友人やファミリードクターに「バイリンガルで育てなさいね!」と言われてきた私だが、「バイリンガルで育てる」ことが私自身の意志となり、育児全般の指針となるまでには、先に述べたようにプレイグラウンドで出会った名前も知らない幾多の母親たちとのおしゃべり、さらには実際、子どもの言語習得の可能性を目の当たりにするという経験を経る必要があった。そうして時間をかけながら、徐々に私は「子どもをバイリンガルで育てる」ことを私の役目のひとつと解し、同時にともすると退屈な私の育児は観察者の視線を得ることによって興味津々の一大プロジェクトになっていった(ように感じる)・・・。
親となった私がどうしても書きたいと感じたコラム「バイリンガルで育てる」では、そもそもなぜバイリンガル育児なのか、英語圏で育てばみんなバイリンガルになるのか、という素朴な疑問から、翻って、日本をバイリンガルの国にするにはどうすればいいのか・・・といった日本改造論(!)までを扱いつつ、バイリンガル育児に関するトピックを母親の目線で綴っていきたい。さらに希望を言えば、いずれはバイリンガル育児の経験を有する読者諸氏の意見も共有できたら・・・、というのが目下の私の願いである。
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