Thursday, July 1, 2010

bits連載コラム第6回 バイリンガル教育の開始時期

いつか公園で私に「日本語をやめて英語で育てれば」と言ったクリスティーナはこうも言った。
「大きくなって、自分で勉強したいと思えば、そのときに始めればいい。私が10代で英語を勉強したのと同じようにね」

確かに言語学習というのはたとえ母国語であっても上限なき生涯学習であり、大人になってからでは遅すぎる、というわけではない。人生半ばにしてフランス語を学び、フランス語で書いた小説が2005年Governor Generals Literary Awardsに輝いたAki Shimazakiの例もある。

ただ、母語を介し、外国語を第2・第3外国語として学ぶという経験(というより「苦労」だわね…)を経た今、私には「偶然にも二言語を同時に習得できる環境があれば、それに越したことはない」という思いが強い。

言語学では、2言語を同時に学習した人たちをsimultaneous bilingualと呼ぶ。彼らは、いわゆる母国語というのが2言語ある状態で(どちらか一方が強くなるという傾向性はあるにしろ)、文法からちゃんと学ぶフォーマルな言語教育によって言語を習得したわけではない。

私のように母語を介して外国語を学ぶと、頭のなかに翻訳箱のようなものができ、そのなかに一回ちゃぽんとつけることによって言語は変換される。今でも、ああでもない、こうでもない、と面倒な言い方をする私は、かなりの程度、そのやり方に頼っているように感じる。一方、simultaneous bilingualの場合は、言語ごとに特定の思考経路ができるため、ひとつの言語はその言語体系のなかで自ずと処理される。1段階置く必要がないため、本人にとってのエネルギー浪費も最小限で済み、「あれまあ、さっきのは過去完了形を使わなくてはならなかったのでは?」と後で頭を悩ますような必要もない。

バイリンガル関連の本によればsimultaneous bilingualを育成するには人生の早い時期に環境を整えるのがいいらしく、生まれてすぐ、いや、最新の研究結果によると胎児のときから始めるのがよいとある。言い換えれば、simultaneous bilingualに育てるためには、本当に偶然にその環境が整っているか、親が意識的にそうした環境を与えるかどうかがカギになってくる。エリックが大きくなって、日本語なんていやだ、とか何とか言い出したらそのときはそのときの話。今のところは、親である私は意識的に彼がsimultaneous bilingualとして2言語を習得できるような環境を整えてあげたいと思っている。

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